前回のエントリー(ご覧になっていらっしゃらない方は是非こちらから!)で板材から指板接着後のサイドポジション入れまでご紹介いたしました、
オーダーストラトタイプギター用のネック。
今日は一気に塗装前の木工作業完了までをご覧ください。
ハンドメイドの本領はここからでございます。
ヘッド部分は外周形状とペグ穴加工はやってましたが、
まだ厚みの仕上げをしていません。
ヘッド表面を1段低く削り、指板とは滑らかなカーブで繋ぐように削ります。
あまり語られることは少ないですが、
本家はこのヘッドの厚み具合が年代によって大きく異なり、
さらに個体差も大きいです。
そしてその厚み具合はヘッドの質量を大きく変化させますので、
実は楽器のサウンドへの影響も大きい部分。
ここはお客様の好みや、これまで加工を進める中で感じてきたメイプル材の材質を踏まえ、
私の基準を元にコンマ5mm単位で調節をしています。
ヘッドと指板を繋ぐカーブ具合もまた私にとってはとても大切な部分ですが、
この滑らかなカーブ部分へのこだわりは、先日Facebookページでご紹介しておりますので、是非そちらもご覧ください。
さぁこれでヘッドは完成。
続いては・・・
お気づきの方もいらっしゃったかもしれませんが、
今回は伝統的な本家より1フレット多い、22フレット仕様というオーダーです。
つまり指板は1フレット分長いのですが、
その分ネックも長くなってしまうといろいろおかしくなってしまいますので、
ご覧のように、ネック部分は従来の21F仕様の位置まで削ります。
ここも、指板を張る前に加工してしまえば大分楽なのですが、
ご覧の通り指板裏に少しメイプルを残すように仕上げるために、
この段階で加工をすることにしました。
これは何か劇的な意味があるものではありませんが、
強度面や見た目を考慮してのものです。
これがボディと合わさるとどう見えるのかは、
また完成時のお楽しみです。
さぁ、次は特に重要な作業、
ネックグリップの本加工に移ります。
左側はご依頼主ご指定の寸法近くまで、
機械を使ってグリップ部分を研削した状態です。
もうこのままでも十分演奏出来るネックになっている自信はあるのですが、
私はここから時間をかけます。
右写真はどちらも「豆平鉋」と呼ばれる鉋なんですが、
通常は右のような状態。
その豆平鉋をグリップ加工用に私がアレンジしたのが
左側のより小さい鉋です。
グリップ仕上げ鉋と呼んでます。
こんな感じで使います。
左手でネックを支えながら
右手で鉋を引いてグリップを削ります。
鉋の正しい使い方としては、片手で使うなんてもってのほかなんでしょうが、
この鉋は片手でも使えるよう万全に仕立てをしておりますので、
ネックをくるくると回しながら、削りたいラインをピンポイントで削ります。
メーカーさんのカタログなんかでは
CシェイプとかUシェイプとか書かれておりますが、
実際にはそんな単純なものではありません。
ネックごとで各部の寸法も違いますし、
たとえばグリップ側を同じ形にしても、
指板のRを変更しただけで、
ネックの感触は全く変わってしまいます。
お客様の好みを踏まえ、演奏上違和感が無いグリップ形状をめざし、
コンマ1mm以下の単位で形状を調整する。
その作業には鉋が一番良いです。
この段階で95%以上形状が仕上がります。
まだ仕上げられないのが、指板の側面やその付近。
フレットを装着した後、そのあたりの仕上げを行います。
フレット装着前に、指板の形状仕上げを行います。
今回はビンテージ系に多いR7.25インチというご指定。
チョーキング時に音詰まりを起こしやすい寸法ですので、
この指板調整の時点で予めその対策もしています。
磨き上げたハカランダ、素晴らしいグレードですね。
フレットはフリーダムカスタムギターリサーチさんのステンレスフレット。
当工房では画像の通り、長いままのフレットを仕入れています。
専用の工具を使って、フレットにRを付けます。
R具合は指板材やフレットの硬さに合わせて調整します。
指板の形に合わせりゃ良いわけではないんですが、この調整具合は文章では説明が難しいですね。
そしたらフレットを各ポジションの長さに合わせてカット。
さらに私はどんなネックでも基本的に、
「オーバーバインディング加工」と呼ばれる、
フレットのタング(指板に打ち込まれる足の部分)を両端少しカットする加工をします。
その名の通り、
本来はレスポールのように指板にバインディングが巻かれているネック用の加工なんですが、
私はバインディングを施していないネックでも実施します。
こうすることで装着した後、指板の横からフレットの足が見えなくなります。
この作業ももちろん手間がかかるのですが、
その分仕上がり後の見た目がスッキリして、私は好きです。
指板側面のフレット溝の隙間は黒いパテで埋めます。
その後指板側面の形状を仕上げ、
ネック全体の形状に違和感が無いことを確認、微調整。
これで全ての作業が完了です。
こうしてネックの加工工程は全て完了いたしましたので、
この後はご依頼主に直接ネックの感触をお確かめ頂くことになっています。
と、2回に渡ってお届けしてまいりましたネック作り、
私はいつもこんな感じでやってます。
作業の正確性に加え、握り心地などの感覚的な部分まで必要とされるネック加工は、
ギター作りの魅力が凝縮されていて、毎度とても楽しいです。
ただ完成してしまうと、
写真ではなかなかそれが伝わらないところが残念ではありますが・・・。
機会がございましたら、
私の作るネック、是非体験してみてください。