工房リニューアルオープン記念の無料セットアップキャンペーン、
残すは5/7(日)のみです。
まだ遅い時間帯に少し空き枠がありますので、ご希望の方は是非コンタクトページよりご連絡下さい。
そのキャンペーンもあり、
リニューアルオープンから3週間で50本以上の楽器を触らせていただきました。
そんな中印象的なのは
「ナットが万全の状態のギターって少ないなぁ」ということ。
そこで今日はそのナットについて
少し掘り下げて考察してみたいと思います。
まず大前提として抑えておきたいのは、
ナットはギターパーツ内随一の「消耗品」です。
弦よりも柔らかい素材で出来ていますので、
弦振動や押弦時の圧力で徐々に弦溝が摩耗、変形してしまいます。
ところが、外見上はそれが判りにくいので、
ナットの不具合は気づきにくいです。
ナットが痛んでくると、
以下のような症状が出て来ます。
・解放弦の音に異音が混ざる
・各弦で音色にバラつきがある
・解放弦がビリ付く
・チューニングをしてもピッチが不安定
・チューニングが狂いやすい
・チューニングがしにくい
・サスティンが不自然
どの症状もいきなりドカーンと来るわけではありませんが、
演奏するそばからジワジワと進行していきます。
以前とは違う違和感を感じられたら、プロの修理屋さんに診断していただくと良いと思います。
上記への対応方法は大きく分けて2つ。
弦溝の高さにまだ余裕があれば、追加工により形状を修正いたします。
摩耗で高さがぎりぎりになってしまっていれば、基本的には交換をいたします。
というわけで、
そんな感じで2弦に違和感が出てしまったMartin D-45。
ご相談の結果、ナットを交換させていただきました。
素材は定番の牛骨(ボーン)です。
70年代後期のMartin D-45。
各部痛みは進んでいて、
かなり弾きこまれている様子ですが、
その分サウンドは大迫力。
鳴りまくりです。
ほんと、すっごい良い音。
ナットも既にオリジナルではなく、
交換された痕がありましたが、
今のナットも摩耗が進み、特に2弦溝は寿命です。
まずは元のナットを外し、
新しいナット材の成形をします。
ナット交換って、
出来合いのものをペタッと貼り付けるだけと思われる方も多いようですが、
個体差の大きいギターという楽器ではそれは無理です。
基本的には上のようなブロック材から、
そのギターに合わせて削り出していく作業です。
写真左が元の素材。
これを右側のように研削しました。
なんで斜めかと言いますと・・・
Martinの有名モデルは、
ナット底面と側面を斜めに加工する必要があります。
その他ほとんどのメーカーは直方体なんですが、
Martinはこれがなかなか手間です。
(その分ピタッと決まると気持ちいいです)
そしたらナットらしい形状に削っていきます。
楽器本体にダメージが出ては行けませんので、
序盤はバイス上で加工します。
全体の高さや形状を出して、
各弦に合わせ弦溝を掘っていきます。
言うまでも無く重要な作業です。
95%程加工したら、
ギターにナットを接着し、
弦を貼ってチューニング、
各弦溝が最適な状態になるよう微調整して仕上げます。
ナットで重要なのは、
やはり各弦の溝の状態なんですが、
ナット全体の形状も大事です。
たとえばこのMartinであれば、
ナットの厚みは5.5mm程ありましたが、
そのナット厚全体に弦を乗せてしまうのは、
不要な摩擦を生みトラブルの元になります。
私は基本的に上写真のように、
ナット厚の半分ほどで弦を支え、
残り不要な部分をしっかりと削り込むことで、
支点としての役割をしっかりさせ、
形状的にも美しく仕上げることを心がけています。
量産品のギターはコストの面からも
なかなかそこまで手を入れられていないものが多く、
そういった部分を追加工するだけでも、
ずいぶんと良くなるものが多いです。
しっかりと調整されたナットの気持ちよさ、
是非一度体験してみてください。