フレット考察

前々回のブログでフレット周りのことについて触れたら、

フレット関係のお問合せを沢山頂きました。

 

特にフレット交換を検討中の方からは

「どのフレットが良いの?」というのは

皆さんお悩みの様子。

 

そこで今日は私なりに、

フレット選び時にご検討いただきたいポイントをピックアップしてみます。

 

 

まず、フレット選びで我々技術者も困ってしまうのが、

流通するフレットの種類の多さ。

 

まずフレットメーカーの老舗Jim Dunlop。

代理店さんサイトをご覧ください。

ここに掲載されているだけで26種類・・・・。

実際はもっとあります。

 

続いて、最近人気のJescar。

こちらも代理店さんサイトをご覧ください。

こちらは11種類。

と思いきや、やはりここに載っていないサイズもあって、

さらにJescarの場合、

これに加えてステンレスフレットなんかがありますので、

結局20種類を優に超えるラインナップです。

 

日本でも、三晃製作所さん、フリーダムカスタムギターリサーチさんなどが有名です。

 

つまり、

ざっと数えてもフレットのメーカーとサイズと素材で80種類前後は流通していますから、

それぞれの0.1mm未満の違いを比較検証し、

理想的なフレットを探し当てる作業なんて、

正気の沙汰ではありません^^;

 

 

私は年間50本程のギターのフレット交換を手掛けておりますが、

お客様からフレットのメーカー、型番等をズバリとご指示頂くことは稀で、

ほとんどの場合はお好みをお伺いした上で、

こちらから使うフレットをご提案させていただいています。

 

 

フレットは主に、演奏性やサウンドに大きな影響がありますので、

どのフレットを装着されるかは、完全に好みです。

楽器の寸法上の多少の制約を除けば、

どのギターに合う合わないとか、

王道だ邪道だとか、

そんなものはございません。

 

これからフレット交換をご検討になる方は、

下記のようなポイントについて

大まかなご希望をお伝えいただければ、

そこから先の選択は、どちらかというと技術者の仕事だと思っています。

 

 

【フレットの高さ】

  • 低い:約1.0mm
  • 中位:約1.2mm
  • 高い:約1.4mm

おそらく演奏性に一番関わるのがフレットの高さだと思います。

フレットが高くなればなるほど指板に指が触れにくくなりますから、

押弦するときに力が要りません。

ただ押さえシロが大きいということは

強く抑え過ぎると弦を引っ張ることになりますので、

ピッチ(音程感)の不安定さにつながります。

 

フレットが摩耗しやすい方は、

いずれまたすり合わせ修理等が必要になる可能性を考えると、

高さに余裕があるフレットをご選択いただいた方が経済的かもしれません。

 

 

【フレットの幅】

  • 細い:約2.0mm
  • 中位:約2.4mm
  • 太い:約2.8mm

 

フレットが細くなると、

フレット側面の形状が垂直に近い角度になりますので、

スライドやグリッサンド時はフレットの引っ掛かりを感じる、

という方もいらっしゃいます。

そういった場合には太さのあるフレットの方が滑らかかもしれません。

 

一方太いフレットは、

摩耗が進んできた場合に弦と接する面がフラットになりやすく、

ピッチが不安定になりやすいと言えます。

 

 

 

つまり、フレットのサイズとしては

高さ3種×幅3種で9種位とお考え頂いた方が分かり易いと思います。

 

続いて素材。

 

【フレットの素材】

  • ニッケルシルバー:フレットの定番素材。HVは160~180程度(最近はHV200のものも流通)
  • ステンレス(フリーダムSpeedy):国産ステンレスフレットの人気商品。HVは210程度。
  • ステンレス(Jescar):ドイツ製ステンレスフレット。HVは300程度

HVというのは「ビッカース硬さ」という単位で、

金属の圧力に対する硬さを数字で表したものです。

数字が大きいほど硬いです。

 

硬ければ硬いほどサウンドはトレブリーに、

耐摩耗性は当然高くなります。

 

近年人気のステンレスフレットはその耐摩耗性以外にも、

表面が酸化しにくいため、

フレット研磨のメンテナンスの手間は大幅に減り、

ニッケルシルバーフレットに比べるとかなりメンテナンスフリーと言えます。

 

同じステンレスフレットでも、

フリーダムカスタムギターリサーチさん製とJescar製では、

私の感覚としては全く別物で、

Jescarステンレスは本当に硬いため、

サウンドキャラクターはかなり変化します。

 

それが良いか悪いかはお客様次第ですが、

ギャンブル性が高いことは言うまでもありません。

 

一方フリーダムさんのステンレスは本当にバランスが良く、

ニッケルシルバーの弱点を改善しつつ、

サウンドも極端では無い適度なステンレス感があり、

個人的にはかなりおススメなフレットです。

 

と言いながらも、

例えば10本ギターをお持ちの方で、

1本だけステンレスに変更したりされると、

その楽器だけ違和感は強くなると思います。

 

一方メインギターが決まっている方にとっては、

ステンレスフレットのメンテナンスフリーな面のメリットはとても大きいです。

もちろん多かれ少なかれサウンドは変わりますが、

エフェクターやアンプ側で十分アジャストが可能です。

 

 

 

見比べたところであれですが、

装着後の写真をいくつかご覧ください。

 

幅:中 高さ:高目 ニッケルシルバーフレット
幅:中 高さ:高目 ニッケルシルバーフレット

ミディアムハイと呼ばれる人気サイズで、

当工房でも取扱い件数が多いです。

これの高さが0.1mm程低いサイズも人気で、

人を選ばないタイプと言えます。

 

 

幅:広 高さ:低 ニッケルシルバーフレット
幅:広 高さ:低 ニッケルシルバーフレット

70年代位のフェンダーがこれでした。

演奏性は良いですが、

最近の流行りと比べるとちょっと低目でしょうか。

 

 

幅:広 高さ:中  フリーダムステンレスフレット ボールエッジ仕上げ
幅:広 高さ:中  フリーダムステンレスフレット ボールエッジ仕上げ

いわゆるミディアムジャンボというサイズ。

一般的なジャンボフレットと比べて、

太さ、高さ共に一回り小さめです。

定番の1つです。

 

 

 

幅:極太 高さ:極高  Jescarステンレスフレット
幅:極太 高さ:極高  Jescarステンレスフレット

これはジャンボを通り越して、

エクストラジャンボと言われるサイズ。

幅3.0mm、高さは驚異の1.5mm程。

HV300の硬ーいステンレスフレットで、

そのサウンドも異次元です。

 

 

あまり参考にならないかもしれませんが、

当工房で主に取り扱っているフレットについては、

以下のようなサンプルも用意していますので、

その違いをお試し頂くことも可能です。

フレット比較サンプル
フレット比較サンプル

もちろん、他のフレットをお取り寄せすることも可能なのですが、

皆さんのお好みを総合すると、

大体上写真のものの中で事足りてしまっているのが現状で、

少なくとも現在流通しているほどの種類が必要だとは全く思いません。

 

フレット業界、

一致団結してもう少しラインナップを少なくしてみませんか?^^;

 

 

最近はフレットメーカーの種類も増え、

宣伝文句に「誤差〇〇%未満!」みたいな表記も増えました。

 

もちろんフレット自体の精度は高ければ高いほど良いですが、

過去どのメーカーのフレットを使っても、

その誤差に悩まされたことはありません。

 

正直技術者の作業精度のムラの方がよほど大きいです。

 

 

ですからフレット交換をお考えの際には、

ご自分のフレットのお好みをじっくりとご選択頂くとともに、

信頼できる技術者にお預け頂くことが何よりも重要だったりします。

 

 

ご参考までに。

 

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カスタムオーダーギター・ベースの製作、リペアとカスタマイズ、オリジナルエフェクターなどの設計・製作をしています。

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