どこもかしこもポケモンGOで大騒ぎですが、
当工房も大変なことに気付きました。
私の作業場の裏手には神社があるのですが、
そこがなんとポケストップなんです。
そのため何と、
私仕事中ずーっとポケストップ内。
おかげで、
モンスターボールと卵だけは困りませんが、
仕事がストップしないように気を付けます。
今日ご紹介するのは、
大がかりなレストア作業をさせていただいた1本のアコギ。
まずは作業が終了した状態をご覧ください。
トップ材は目の詰まったスプルース材。
綺麗な飴色に焼けた塗料や、ヘリンボーン柄の装飾が素敵です。
サイドやバックはさらに素晴らしく、
本柾目に木取られたローズウッド単板。
おそらくインディンアンローズだと思いますが、
濃いカラーリングの中に見えるオレンジストリークがとても綺麗です。
指板とブリッジはおそらく縞黒檀。もしかしたら本黒檀かもしれません。
マザーオブパール材のスノーフレークインレイと、
申し分の無いスペックです。
さぁこの素晴らしい風格のアコギ、
いったいどこのブランドのものでしょう?
そもそもお預かりした時点ではあまり良い状態では無く、
浮きや摩耗が目立つフレット、
高さが不足しているナット、
12Fで4mm近くある弦高、
でも音が詰まるポジション有り。
フレット、ナットは全て交換しました。
ネックは年代の割に良い状態で、
ネック起きもごくわずかでしたので、
指板面はそれなりでは無く、理想的な形状まで修正が出来ました。
硬質な良いエボニーです。
ナットも牛骨材で作り直し。
弦ピッチは元の物を踏襲していますが、
それ以外余計な部分は残さず削り込み、
丁寧な形状に成形します。
ナット全体の雰囲気は、元と大分違いますね。
高過ぎる弦高はどうしたかというと・・・
エボニー材によるブリッジは、
一般的なものよりもかなり厚みがある状態で取りついていました。
そこで弦高を下げたい分ブリッジ自体を削り込み、丁寧に研磨。
オイルとワックスで仕上げています。
元の厚みが十分過ぎましたので、
削った後でも平均的なブリッジ厚が残っています。
もちろんこの後、サドルの高さも調整。
こうしてすっかり蘇ったこのギターの正体は・・・
ピアノで有名な河合楽器のアコースティックギターF-800D。
おそらく35年前程のものだと思います。
その型番から察するに、
当時8万円定価で販売されていたものかと思います。
今でも中古市場でそれほど注目されているということは無さそうで、
調べてもほとんど出てきません。
多分出てきたとしても、安い中古価格にしかならないものかと思います。
それでも私の感想としては、
これは素晴らしい楽器だと思います。
最近はジャパンビンテージの人気が高まっているようではありますが、
当時の日本製ギターは元々高級志向のものでは無く、
その多くは職人さんの技術頼みなものばかり。
材やパーツは廉価なものや代用材で済ませているものが多い印象です。
ところがこのF-800Dは、
素材全てが一級品で、現在のD28グレードにも劣りません。
ペグもなんとGrover104。
もちろんその作りは全体的にとても丁寧で、
30年以上経っている現在も、大きな故障が出ていません。
塗料こそラッカーではなくウレタンのようですが、
非常に薄く仕上げてあり、
そのおかげか白濁のようなウレタン経年の症状も出ていません。
いろんな面で
当時のカワイとその職人さんの本気を感じます。
あらためて、
作業完了後をご覧ください。
浮きの酷かったフレットも、
エッジの仕上げ含めて万全の交換作業。
やはり新しいフレットは気持ちがいいです。
Fishmanのマグネティックピックアップも同時にお持込いただいてましたので、
インストール作業も行いました。
これでもう、
楽器としては悪いところが見当たりません。
この手の古い国産楽器は、
現在の本体の価値よりも修理代金の方が上回ることが多く、
今回の様に大がかりな修理を承ることは少ないです。
それでも日本で修理に携わる人間としては、
こういった楽器も出来るだけ後世に伝えて行って頂きたいと思います。
カッコつけて語った最後に下世話な話をさせていただくと、
例えば中古でこのギター見つけて、
しっかりリペアしてもらっても
おそらく10万円あればお釣りが来ます。
それでこのグレードのアコギが入手できるのなら・・・。